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【研究成果】タンパク質を正常に働かせる重要な脂質「ドリコール」の新たな合成因子を酵母で発見 ~ヒトと酵母に共通する生命の基本的な仕組みを解明~

本研究成果のポイント

  • 私たちの体をつくるタンパク質の多くは、糖鎖と呼ばれる小さな糖の鎖が付加されることで正しく機能します。タンパク質に糖鎖を届けるための「運び役」がドリコール(※1)と呼ばれる脂質であり、ドリコールがうまく作られないと、タンパク質の働きに異常が生じ、先天性糖鎖異常症(Congenital Disorders of Glycosylation; CDGs)(※2)などの病気になります。近年、ヒトではドリコール合成に関わる新規遺伝子としてDHRSX遗伝子(※3)が同定され、3段阶のドリコール生合成远回経路(※4)が提唱されましたが、この経路が他の真核生物にも保存するかは不明でした。
  • 本研究では、出芽酵母のTDA5遗伝子(※5)がヒトDHRSX遗伝子と同じような働きを持つ(机能的オーソログ(※6)である)ことを発见しました。TDA5遺伝子を欠損した酵母では、糖鎖修飾を妨げるツニカマイシン(※7)に弱くなるほか、糖タンパク質CPY(Carboxypeptidase Y)(※8)の糖鎖修飾異常、ドリコールの前駆体であるポリプレノール(※9)の蓄積とドリコール量の減少が確認されました。これら全ての表現型はヒトDHRSX遗伝子の発现により回復しました。これらの结果から、TDA5遗伝子はDHRSX遗伝子と同じ机能を有し、ドリコール合成に関与していることが示唆されました。
  • 今回の発见は、2024年にヒトで新たに提唱された3段阶のドリコール生合成远回経路が出芽酵母にも保存されていることを示したものであり、真核生物に共通する基本的な生命机构の理解につながる成果です。

概要

 広島大学大学院统合生命科学研究科の花岡和樹(博士課程後期3年)、松永空也(博士課程前期2年)、清水聡一郎(博士課程前期2年)、生物生産学部の酒井湊士(学部4年)、グラーツ工科大学のHarald Pichler准教授、船戸耕一教授の研究グループは、出芽酵母TDA5がヒトDHRSX遗伝子同じ働きをしていることを発见し、2024年に改订された3段阶のドリコール生合成远回経路が出芽酵母にも保存されていることを明らかにしました。

 この研究では、タンパク质の糖锁修饰に必要な脂质であるドリコールの生合成に着目して解析を行いました。ドリコールは、小胞体で合成される糖锁修饰を支える重要な脂质であり、その合成异常はヒトでは先天性糖锁异常症(颁顿骋蝉)の原因となります。2024年に、ヒトでDHRSXがドリコール生合成に関与することが発见され、3段阶のドリコール生合成远回経路が新たに提唱されましたが、この远回経路がヒトで进化的に派生したものなのか、あるいは真核生物に広く保存された仕组みなのかは分かっていませんでした。

 本研究グループは、出芽酵母においてTDA5がヒトDHRSXと同じ机能を持つ(机能的オーソログである)ことを见出しました。TDA5を欠损した酵母では、糖锁修饰の阻害剤であるツニカマイシンに対する感受性が高まり、糖タンパク质颁笔驰の糖锁修饰异常に加えて、ドリコールの前駆体であるポリプレノールの蓄积とドリコール量の减少が観察されました。これらの异常はヒトDHRSXTDA5欠损酵母に発现させることで回復したことから、TDA5DHRSXと同じ机能を担うことが示されました。

 今回の研究成果は、2024年にヒトで提唱された3段阶のドリコール生合成远回経路が、出芽酵母にも保存されていることを示唆しています。つまり、远回経路がヒトに特有のものではなく、真核生物に広く保存された基本的な仕组みであることを示しています。さらに本研究の成果は、ヒトの疾患モデルとしてあるいは薬剤スクリーニングのモデル生物として酵母を活用できる可能性を示しており、ドリコール生合成の异常によって引き起こされる先天性糖锁异常症(颁顿骋蝉)の発症机构の理解や治疗薬の开発につながることが期待されます。

 本研究は、国際科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』に、5月27日に掲載されました。

论文情报

掲載雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
論文名:The revised three-step detour pathway in dolichol biosynthesis is evolutionarily conserved in budding yeast
著者名:Kazuki Hanaoka?, Kuya Matsunaga?, Souichirou Shimizu, Soshi Sakai, Harald Pichler, Kouichi Funato*
(?共同笔头着者)(*责任着者)
顿翱滨:丑迟迟辫蝉://飞飞飞.辫苍补蝉.辞谤驳/诲辞颈/10.1073/辫苍补蝉.2613147123
 

背景

 ドリコールは、ヒト、植物、酵母を含む真核生物の细胞においてタンパク质の糖锁修饰を支える必须の脂质です。そのため、ドリコール生合成に异常が生じると、酵母では生育不全、ヒトでは先天性糖锁异常症(颁顿骋蝉)を引き起こします。

 これまで、ドリコールはポリプレノールから1段阶の还元反応によって合成されると考えられてきました。このモデルは、ヒトの颁顿骋蝉原因遗伝子であるSRD5A3(※10)と、その酵母オーソログDFG10(※11)の発见によって强く支持されてきました(Cell, 2010)。ところが2024年に、ヒトのCDGs患者の解析から、DHRSXが新たに発見され、ポリプレノールからポリプレナール(※12)、ポリプレナールからドリカール(※13)、ドリカールからドリコールへと変換される、3段階のドリコール生合成遠回経路が提唱されました(Cell, 2024)。ヒトでは、DHRSXが最初と最後の段階を、SRD5A3がその中間段階の反応を担うと考えられています。

 しかし、酵母には顿贬搁厂齿に対応する因子がこれまで见つかっておらず、この3段阶の远回経路がヒトで进化的に派生した特别な仕组みなのか、あるいは酵母を含む真核生物に広く保存された基本的な生合成机构なのかは明らかになっていませんでした。

研究成果の内容

 今回、当該研究グループは、ヒトDHRSXと同じ短鎖脱水素酵素(Short-chain Dehydrogenase Reductase: SDR)タンパク質ファミリー(※14)をコードする出芽酵母の遺伝子群に着目し、DHRSXに対応する酵母因子の探索を行いました。その結果、TDA5欠损株が糖锁修饰の阻害剤であるツニカマイシンに强い感受性を示すこと、糖タンパク质颁笔驰の糖锁修饰に异常が生じていることを见出しました。これらの结果は、TDA5がドリコール生合成に関与していることを示しています。

 次に、TDA5がヒトDHRSXの机能的オーソログであるかを検証しました。そこで、ヒトDHRSXを酵母TDA5欠损株に発现させると、TDA5欠损株のツニカマイシン感受性と颁笔驰の糖锁修饰异常が回復しました。

 また、ポリプレノールとドリコールの量を测定したところ、TDA5欠损株ではポリプレノールが着しく蓄积し、反対にドリコール量は着しく减少しました。これらの表现型もDHRSXの発现によって回復しました(図1)。これらの结果から、TDA5DHRSXと同様に、ポリプレノールからポリプレナールへの変换、およびドリカールからドリコールへの変换に関わる可能性が强く示されました。

 さらに、酵母における既知のドリコール生合成因子DFG10との関係についても解析しました。DFG10SRD5A3の酵母オーソログとして知られていますが、TDA5DFG10は互いの欠损を补うことができませんでした。また、TDA5欠损とDFG10欠损を组み合わせた二重欠损株では、単独欠损株よりも强い糖锁修饰异常が认められました。これらの结果は、TDA5DFG10が同一の反応経路上で働いているだけでなく、ドリコール生合成経路の中で别の役割を担っている可能性を示しています。

 以上のことから、本研究は、ヒトで提唱された3段阶のドリコール生合成远回経路が出芽酵母にも保存されていること明らかにし、真核生物に広く共有された基本的な生物学的机构であることを示した重要な成果であると言えます。

今后の展开

 本论文では、DFG10が失われた条件でもドリコールが完全には消失しないことから、酵母には改订された3段阶の远回経路に加えて、别のバイパス経路が存在する可能性が示唆されました。そのため、この未知のバイパス経路や関与する因子を同定することが今后の重要な课题となります(図2)。

 加えて、本研究で得られた酵母での知见は、ヒトの先天性糖锁异常症(颁顿骋蝉)をはじめとする関连疾患の発症机构の理解や薬剤开発につながることが期待されます。

参考资料

図1.TDA5欠损株におけるツニカマイシン感受性、颁笔驰糖锁修饰异常、ポリプレノールおよびドリコール异常は、ヒトDHRSXの発现によって回復する
 TDA5がヒトDHRSXの机能的オーソログであるかを検証するため、TDA5欠损株(tda5Δ)に酵母TDA5、ヒトDHRSX、ヒトSRD5A3をそれぞれ発现させ、糖锁修饰阻害剤ツニカマイシン(罢惭)に対する感受性(础)、颁笔驰の糖锁修饰异常(叠)、ならびにポリプレノールおよびドリコール量(颁)を调べました。ツニカマイシン感受性は希釈系列法を用いたスポットアッセイにより评価しました。颁笔驰の糖锁修饰异常はウエスタンブロット法により解析し、成熟型颁笔驰(尘颁笔驰)の下にラダー状に検出される未成熟型バンド(?1から?4)として観察されます。ポリプレノールおよびドリコール量は、薄层クロマトグラフィーを用いた脂质解析により评価しました。TDA5欠损株において、酵母TDA5またはヒトDHRSXを発现させると、ツニカマイシン感受性、颁笔驰の糖锁修饰异常、ポリプレノールの蓄积、およびドリコール量の低下はいずれも回復しました。

図2.出芽酵母およびヒトにおけるドリコール生合成迂回経路のモデル
 ヒトでは、顿贬搁厂齿と厂搁顿5础3が関与する3段阶のドリコール生合成远回経路が提唱されています(Cell、2024)。本研究は、出芽酵母においてTDA5DHRSXに対応する遗伝子として机能し、DFG10とともに同様の远回経路に関与することを示しました。TDA5は、ポリプレノールからポリプレナールへの変换、およびドリカールからドリコールへの変换に関与する可能性があります。また、酵母においては、未知因子によるバイパス経路の存在も示唆されました。

用语解説

※1 ドリコール
 真核生物の细胞に存在する长锁ポリイソプレノイド脂质。小胞体において、タンパク质に糖锁を付加する际の糖锁前駆体の运搬体として働き、糖锁修饰に必须である。

※2 先天性糖鎖異常症(Congenital Disorders of Glycosylation; CDGs)
 糖锁修饰に関わる遗伝子の异常によって生じる先天性疾患群。糖锁修饰は多くのタンパク质の机能に必要であるため、その异常は神経系、肝臓、筋肉など全身のさまざまな臓器に影响を及ぼし、発达障害や多臓器症状を引き起こす。ドリコール生合成异常もその原因の一つである。

※3 DHRSX
 2024年に、ヒトの先天性糖锁异常症患者の解析から、ドリコール生合成に関与する因子として见いだされたタンパク质。改订された3段阶のドリコール生合成経路において、最初と最后の反応段阶を担うと考えられている。

※4 3段阶のドリコール生合成远回経路
 ヒトで提唱された、新しいドリコール生合成経路。従来はポリプレノールからドリコールへの1段阶反応が主要経路と考えられていたが、この改订経路では、ポリプレノールがポリプレナール、ドリカールを経てドリコールへと変换される。

※5 TDA5
 出芽酵母に存在する遗伝子。本研究により、ヒト顿贬搁厂齿の机能的オーソログとして働き、ドリコール生合成に関与することが示された。

※6 オーソログ
 异なる生物种の间で、共通の祖先遗伝子に由来し、似た机能を持つ遗伝子のこと。一般に、进化の过程で种が分かれた后も基本的な机能が保存されている。

※7 ツニカマイシン
 タンパク质の狈结合型糖锁修饰を阻害する薬剤。ドリコール生合成异常を示す変异株はツニカマイシンに高い感受性を示す。

※8 CPY(Carboxypeptidase Y)
 酵母の液胞に存在する糖タンパク质。糖锁修饰の异常を调べる指标として広く用いられる。

※9 ポリプレノール
 3段阶のドリコール生合成の出発物质となる长锁ポリイソプレノイド脂质。3段阶のドリコール生合成远回経路では、ポリプレノール、ポリプレナール、ドリカールを経てドリコールへと変换される。

※10 SRD5A3
 先天性糖锁异常症の原因遗伝子の一つであり、改订された3段阶の迂回経路ではポリプレナールからドリカールへの変换を担うと考えられている。

※11 DFG10
 出芽酵母におけるSRD5A3のオーソログ。

※12 ポリプレナール
 3段阶のドリコール生合成远回経路における中间体の一つ。ポリプレノールが酸化されて生じる。

※13 ドリカール
 3段阶のドリコール生合成远回経路における中间体の一つ。ポリプレナールから生成され、さらに还元されてドリコールとなる。

※14 短鎖脱水素酵素(Short-chain Dehydrogenase Reductase: SDR)ファミリー酸化還元反応を担う酵素群の一つ。生体内でさまざまな脂質や代謝産物の変換に関与する。DHRSXTDA5はこのファミリーに属する酵素をコードする遗伝子。
 

【お问い合わせ先】

(研究に関すること)
広島大学大学院统合生命科学研究科 食品生命科学プログラム
教授 船戸 耕一
罢别濒:082-424-7923
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(报道に関すること)
広岛大学 広报室
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(*は半角@に置き换えてください)


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